トンネルを抜けると生保内川が右に左にまとわりつくように流れる。見事な渓谷美を車窓から堪能するうちに田沢湖駅到着。さらに十五分、小さな駅を三つほど通過すると角館。旅の最初の目的地だ。ここは、みちのくの小京都と呼ばれる趣のある町だが、駅前の建物はホテルも交番もすべて蔵づくりのような家並みで統一され、落ち着いた雰囲気にしてある。道すがら買い求めたおやつを頬張りながら、有名な武家屋敷と河原の桜を見に歩き出す。おやつは「なると餅」と「凡びす餅」。前者は笹の葉の上に餅米を花型にかたどってむし上げた手づくり菓子で、少々硬いもち米が口の中で崩れるときの味がよい。後者は茶色でねばねばしていて見た目は悪いが、黒砂糖入りの餅と中のあんこの調和が何ともいえず美味しかった。武家屋敷は、そのたたずまいには感心するものの、肝心の枝垂れ桜は、ちょっと来たのが遅かったのか緑が多く、やや期待外れだった。それに比べて、桧木内川堤のニキロにも及ぶソメイヨシノは満開。背後に見える古城山の桜とともにピンク一色で壮観だった。観光客が多いのか標準語がかなり耳に入ってくるが、ネイティヴの話す言葉は私には要領を得ない。「おざってたんせ」「どもな」「かぐだで」「へばな、まんちい」……。